地産生ホップを使ったクラフトビールが武蔵野で誕生!『栽培〜収穫〜醸造そして完成編』
お酒好きの間のみならず、最近では一般的にもクラフトビールが人気ですよね。現在、都内でクラフトビールを醸造するブルワリーは法人登録されているだけで42箇所もあり、全国的に見ても非常に多いのだそうです。
そんなクラフトビールを、なんとホップを栽培するところから販売まで地域ぐるみで作っちゃおう! と名乗りを挙げたのが武蔵野市。都内で地産地消を目指した地ビールプロジェクトを前後編に分けてレポートしていきます!
密着!「ホップ栽培〜クラフトビールができるまで」
【吉祥寺ホッププロジェクト】と名付けられたこの企画、なんでも「育てる(ホップ栽培)」「作る(ビール醸造)」「消費する(人が集まる吉祥寺)」と、地産地消に必要な導線を持っている武蔵野の特性を生かしてオリジナルビールが生み出そう!ということで立ち上がったプロジェクトなのだそうです。
前編では吉祥寺で実際にホップを育てるところから、地元のブルワリーでビールを醸造、完成するまでを密着します。今回のプロジェクトの特徴はなんといっても武蔵野の大地でホップを栽培するところでしょう!
ホップは乾燥していて日照条件の良い、涼しく安定した気候を好むため、国内収穫量そのものが少なく国産ホップは貴重なのです。そんな条件の中、あえて武蔵野の大地でホップを栽培する理由…もちろん地産地消というテーマもありますが、もう一つ、生のフレッシュなホップを使った吉祥寺ならではのオリジナルビールが作れる点こそ大きな理由なのです。
通常ビール醸造には乾燥したホップを使うのが常なのですが、フレッシュホップを使うと乾燥ホップでは味わえない鮮烈な香りと苦味が楽しめるのです。つまり採れたての国産ホップだから味わえる旬の味!というわけです。ではそんなホップの栽培からレポートしていきましょう!
今年は気象条件が悪くホップの育ちが…不安を抱えつつ迎えた収穫やいかに?
ホップの苗植えが行われたのは4月中旬。吉祥寺駅に程近い、都会では貴重な農地スペースに50株ほどが植えられました。
前述の通り、ホップの発育は多分に気象条件の影響を受けます。特に日照が必要なホップにとって今年の長かった梅雨はなかなかに厳しい状況だった様子。成長が遅く、元々予定していた収穫タイミングよりも一ヶ月遅れの8月下旬の収穫となってしまいました。
今回の企画では八ヶ岳の南麓という冷涼な高原地、山梨県北杜市で日本でも数少ないホップ農家を営んでいる小林吉倫さんをホップの育成アドバイザーとしてお招きし、苗植えから収穫までをバックアップしていただきました。
小林さんがホップを始めたのは2016年。日本のホップ栽培発祥の地、山梨県は北杜にて1.5ヘクタールという広大なホップ農園を運営しています。
―小林さん
「ホップは品種によって全て香りが違うのですが、今回は実績のない武蔵野の気候と土地で栽培するので育てやすくて病気に強く一年目から収穫量が見込める、アメリカのカスケードという品種を植えました。それでも今年は長かった梅雨の影響、そしてまだ養分が充分でない土の状態などのネガティブな条件が重なってかなり育ちが遅かったですね。
一年目ですので仕方がない部分もあって高さもあまり出ずホップ自体も小さかったのですが、とはいえ収穫してみて中のルプリン(ホップの特徴となる黄色い分泌物)もしっかりしているので、充分合格点なのではないでしょうか。ホップは同じ品種でも土地で香り苦味が変わるので、そういった意味でも武蔵野台地の“香りと苦味”が楽しみですね」
8月中旬、まだまだ強い日差しが照りつけるなかでの収穫イベントでしたが、参加者の皆さんもちろん実際のホップを目にすること自体初めて、という方がほとんどだったので小林さんが摘み方を指導。
ホップの中にはルプリンという黄色い分泌物があり、これがホップ特有の香りの元なのです。親子連れの参加者もいるなか、みなさん興味津々で摘み取っていました。
その中に混じる形で今回の農地を提供し実際に育てた清水さんも我が子のようなホップを愛でながら収穫に励んでいました。
―清水さん
「私自身ももちろんホップ栽培は初めてのうえにこの土地で栽培することも初めて。初めて尽くしでわからないことだらけの部分を小林さんにサポートして頂きながらなんとか収穫を迎えられてホッとしているのが本心です(笑)。苦労した部分は、農業をやっていれば当たり前のことですが、例えば日常の高さのある棚なので、荒れた天気の日は倒れてないかマメに確認しにいったりですとか。この経験を糧に来年はもっと良いホップをたくさん収穫できるようにしたいですね!」
というわけで残暑厳しいなか、この日の収穫は完了。ちなみにこの日、収穫したホップの天ぷらが参加者に振舞われました。カラッ!サクッ!とした食感とほんのりの苦味はおつまみにおすすめなお味でした。
さてさてお次はお待ちかねのビール造りです!
わずか3坪のマイクロブルワリー【26Kブルワリー】でビールを造ろう!
いよいよビールを作りましょう!ということでお世話になる醸造所は、武蔵境にある【26Kブルワリー】さん。なんと醸造所そのもののスペースはわずか3坪ほどの高架下! ここで武蔵野の水を使い丁寧に造られるクラフトビールは個性派ぞろい。クラフトビール愛好家にも知られたブルワリーなのですが、オーナーの見木さん、実はこの吉祥寺ホッププロジェクト企画を立ち上げたスイベル&ノットの代表でもあり、このプロジェクトの中心人物の一人なのです。さて、一体どんなスタイルのクラフトビールになるのでしょうか?
―見木さん
「思っていたよりも収穫量が少なかったことを除けば、とても良い出来のホップに育ちましたね。より一般の方にもクラフトビールを楽しんで頂きたいという想いもあるので、飲みやすい方向性を考えています。26K得意のライトエールスタイルをベースに、生ホップを使うことでのフレッシュな苦味、そして2杯目を頼みたくなる、吸い口がよくキレがあって飲み飽きない、そんなビールを目指します。シトラスの香りのカスケードは爽やかさが特徴なのですが、その爽やかさを生かせればいいなと考えてますね」
ちなみにビールってどんな原料を使って、どうやって造られるかご存知ですか? 原料は今回栽培したホップに加え、麦芽(大麦)、水、そして酵母。これに副原料が加わる場合もありますが、意外とシンプルなんですね。
そして造り方をとっても簡単に説明しますと、まず麦芽を煮出して麦汁を作ります。でんぷん質を糖に変化させる糖化が起こるので、この時点での麦汁はとっても甘いんです!ご存知でしたか? 一口頂いたのですが、確かに自然な甘さが口に広がります。
次に苦味と香り付けをするために、麦汁を煮沸しながらホップを投入します。まずホップを手で軽く揉んで麦汁に馴染みやすいようにします。
いよいよ揉み込んだホップを編み袋に入れ、煮沸した麦汁に投入!
数分〜数十分そのまま煮出したらホップのお役目は終了。煮出しすぎるとエグ味が出てしまうのだそうです。その後酵母を投入し発酵という流れになります。スタイルにもよりますが麦からビールになるまでは大体2~3週間といったところなのだそうです。どんな味になるのか今から楽しみ!
ついに完成!その名も「吉祥エール」
苗植えから数えること約5ヶ月、ついに武蔵野の大地で育った生ホップでのビールが完成! その名も「吉祥エール」。提供はドラフト(生)と瓶の二種類で、瓶に貼られるホップのシルエットが象徴的にデザインされたオリジナルラベルには、”武蔵野市”70周年を祝うマークも。
ではお待ちかね!ドラフトを試飲させていただきました! 一口味わってまず感じたのは“濃厚なのに飲みやすい!”。ライトエールスタイルらしいキレの良さに加えて重厚な味わいがあり、苦味とコクもしっかりとしたボトムが感じられました。この苦味とコクこそ摘んだばかりの生ホップならでは、なのでしょうね。
「人+農+まち」をつなぐ! クラフトビールに込めた想い
―見木さん
「吉祥寺は大きな街ですが、そこに都市型農業と地域の特産品開発を組み合わせることで地域資源の活用、そして地産地消といった地域との共生ができるのではないかと。ホップの栽培〜オリジナルクラフトビールを製造するプロジェクトを通して武蔵野エリアが活性化できれば、と考えてますね」
コロナ禍の現在、リモートワークなどの導入によって働き方が変わった結果、地域のあり方が変わってきています。オフィスに近い場所に住む必要がなければ住みたいところに住めばよい。そう考える人も増えているといいます。
そんな、住みたくなるような魅力を与えてくれる地域活性のムーブメントを、一杯のクラフトビールから生み出そうというこのプロジェクト。次回はついに完成した「吉祥エール」を吉祥寺の皆さんに味わってもらい、感想や評判をレポートしていきたいと思います! お楽しみに!
26Kブルワリー
東京都武蔵野市境南町3-2-13
0422-38-5500
詳細情報
※文中の店舗情報は2020年10月現在のものです。
※凸版印刷様が運営されているウェブサイト”旅道”のクローズに伴い、許可を得て、弊機構の取材記事をこちらへ掲載しています。